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練吉は永い間黙つていた。それから、いかにもいやいやな調子で、
三間つゞきの奥座敷では蝋燭だの燈芯の明りで照し出された仏壇を前に、来客達が思ひ思ひの所にかたまつて坐つていた。
不幸なことに房一の予測はあたつた。いや、それ以下とも云へた。
と、房一の近くで云ふ声が聞えた。今泉らしかつた。つづいて同じ声が
その何番はわたしの隣室で、当分お客を入れないといったのも無理はない。そこは幽霊(?)に貸切りになっているらしい。宿へ帰ると、私はすぐに隣座敷をのぞきに行った。夏のことであるが、人のいない座敷の障子は閉めてある。その障子をあけて窺うかがったが、別に眼につくような異状もなかった。
正文はその傍に近づきながら、他の用事で来たついでのやうに云つた。
小谷は髯のことなんかはよく覚えていなかつたので、曖昧に、気のない返事をした。道平は、さつきは盛子に紅くなるほど笑はれて多少気を悪くしたことではあるが、こんな風に自分が元通りに恢復し、房一の家の縁側に腰を下し、やつて来た人から何やかと話しかけられることに一種のまごつきと期待を現しかけた。だが、小谷には何の反応もなく、その目は又紙衣裳の方へ帰つた。
「まあ、のみなさい」
「さあね、もうかれこれ二十年にもなるだらうかね」
「畜生、おぼえていろ。」
正文はそれきり黙つた。だが、練吉の妻はまだそこに片手をついたまゝ、何か答へを待つやうに老医師の方を向いていた。その眼には何か訴へるやうな非難するやうな色が見えた。正文はふと気づいた。
この分では永くなりさうだと思つて、房一が腰を浮かし気味にすると、
「君は昨日その九州から来た連中を赤山へ案内して行つたちふぢやないか」